大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(ネ)2000号 判決

右の認定事実によれば、本件手形は、朝井不動産株式会社もしくはその代表取締役である朝井弘において支払い、控訴会社(振出人)はその支払義務を有しない約定の下に振り出されたものに係ることが明らかであるから、控訴会社は本件手形の受取人である朝井不動産株式会社に対しては、本件手形の支払を拒絶し得る人的抗弁事由を有するものといわなければならない。

被控訴人は、本件手形は朝井弘の被控訴人に対する貸金債務の支払のため被控訴人に対し裏書譲渡されたものであるから、控訴会社は上記人的抗弁事由をもつて被控訴人に対抗することはできない旨主張し、控訴会社は、これを争い、本件手形における各裏書は、朝井不動産株式会社もしくはその代表取締役である朝井弘が被控訴人の名を籍りて控訴会社に対し本件手形金の請求をするための手段としてなされたもので、朝井喜美代および被控訴人はいずれも本件手形の実質上の権利を譲り受けたものではないから被控訴人は本件手形につき固有の経済的利益を有せず、したがつて控訴会社は被控訴人に対し上記人的抗弁事由をもつて対抗し得るものである旨主張するので、この点について判断する。

〔証拠〕を総合して考えると、朝井不動産株式会社の代表取締役朝井弘は、本件手形の受取人である同会社から直接控訴会社に本件手形金の取立をなすにおいては、上記控訴会社の人的抗弁事由をもつて対抗せられるべき虞あることを考慮し、被控訴人をして本件手形金の取立をなさしめるため、本件手形を同居の妻である朝井喜美代に対し白地裏書した上、更に同女の白地裏書を加えて、これを被控訴人に裏書交付したものであること、および被控訴人は本件手形の裏書交付を受けるにつき、他に特段の原因関係を有していなかつたことを認めるに十分である。

右認定事実によれば、本件手形における朝井不動産株式会社の第一裏書および朝井喜美代の第二裏書は、朝井不動産株式会社が単に被控訴人に本件手形の取立を委任するためになされたもので、いわゆる隠れたる取立委任裏書にすぎず、被控訴人は右裏書譲渡を受けるについて特段の原因関係を有しなかつたことが明らかである。

しからば、本件手形上の権利は被裏書人である被控訴人に移転したものとなすべきではあるが、被控訴人は本件手形上の権利を行使するにつき自己固有の利益を有しないものと認めるを相当とする。したがつて、本件手形の振出人である控訴会社は、その受取人である朝井不動産株式会社に対する上記人的抗弁事由の存在についての被控訴人の善意、悪意に関係なく、上記抗弁事由をもつて被控訴人に対抗し得る筋合であるといわなければならない。

(土井 兼築 高橋)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!